ピレモン 20節-21節

Yes, brother, let me benefit from you in the Lord; refresh my heart in Christ.
Having confidence in your obedience, I write to you, since I know that you will do even more than what I say. (NASB)

そうです。兄弟よ。私は、主にあって、あなたから益を受けたいのです。私の心をキリストにあって、元気づけてください。
私はあなたの従順を確信して、あなたにこの手紙を書きました。私の言う以上のことをしてくださるあなたであると、知っているからです。(新改訳)


構文分析と訳文の比較

構文分析は、呼びかけ、呼格である”brother”を最初に取り出しました。また、原文でも英語でも最初に来ている”yes”にあたる言葉は、強調を表す語で、英語ではverily, truly などの副詞としての意味を持つということで、命令文の最初の動詞に付く形で配置しました。

「益を受ける」と訳せる語は、ピレモンの奴隷であったオネシモ(役に立つ者)の名前と語幹が同じで、パウロはここでも言葉遊びをしている部分があります。

NASBは、後半の21節を、次の段落もしくは意味のまとまりとしていますが、NIVという聖書は、この21節までを前の段落もしくは意味のまとまりとしています。手元に有るギリシャ語の聖書が21節を次の段落に入れていますから、NASBはそれにならったのかもしれません。個人的にはNIVの区切りが良いのではないかと思いましたので、この二節を取り上げました。

NASBを見ると、20節はセミコロンで区切れています。手元のギリシャ語の聖書でも上付きの点が置かれており、大きな一区切りであることが示されていますが、ピリオドほどの終止感は無いようです。英語のセミコロンの感覚で考えることにして、構文分析図でも補足説明という二つの命令文を線で結んでみました。

e-sword で、他の直訳調の聖書 LITV やYLTなどを見ると、21節は、I wrote という主節の前後に分詞句が配置されています。NASBがsince I know という風に、理由の副詞節として訳した部分も、ギリシャ語の聖書では完了分詞句 になっています。それで、構文分析の方は、分詞句として配置し、NASBと異なっていることを示すために、赤い下線を施しました。
 NASBは原文になるべく忠実に訳すことを方針にしていますので、多くの場合は、分詞句は分詞句として訳します。今回どうしてその方針を曲げて副詞節として訳したのかはわかりません。私には特にそこまでする必要が有ったとは思えません。
 分詞句は、文脈によって付帯状況、理由などのどの用法かを考えなければなりませんし、時には複数の用法にまたがっていると考えることもできるので、直ぐに理解するのが難しい場合が有ります。特に理解が難しい場合や、複数の可能性のうちどれかを取ると、神学的に間違った内容になる場合には、それを避けるために副詞句として訳し、その意味を明確にする努力がなされる場合が有ります。
 新改訳を見ると、理由を表す独立した文として訳してあり、NASBのやり方に近いと言えます。

新改訳は、21節後半の「知っているからです」という部分が本来分詞句であるということを表せていませんが、NASBのように理由の文として訳したことによって、原文の語順とニュアンスに近い訳ができていると思います。それで、今回は構文分析の結果に従った和訳の試みはしないでおこうと思います。


この箇所から学べる霊的意義

ともすると、押し付けがましい依頼の言葉のように見えますが、ポイントは20節に繰り返し述べられています。益を受けたいのも、元気付けて欲しいのも、「主にあって」であり、「キリストにあって」であるということです。 つまり、パウロは個人的な好み、思惑、都合などからこのことを依頼しているのではなく、イエス・キリストの教えに従うならば、そうなるはずであるという部分を確認しているのです。兄弟という呼びかけも、同じイエス・キリストにある信仰がなければ成立しないものです。
 パウロの伝道を通してキリスト教徒になったピレモンが、その教えに従って生きる姿を見ること、またその教えに沿ったパウロの指示を受け入れてくれることが、パウロには喜びであり、すなわち「益」となるのです。ピレモンがそのようにしてくれることが、パウロにとっては、伝道の甲斐が有ったという喜びであり、すなわち「元気づけられる」ことになるのです。元気付けられると訳された語は、「力を取り戻す」という意味も有ります。

キリスト教徒にとっては、イエス・キリストの教えを守ることが、互いの喜びであり、益であり、元気付けられることであるべきです。

 

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